珪藻を使った芸術作品をご存知でしょうか?
それは顕微鏡でしか見ることができない自然美のアートです。
目次
・珪藻土の「珪藻」
・ヴィクトリア朝時代の珪藻アート
・現代の珪藻アーティスト「クラウス・ケンプ」
最後に珪藻アートの製作過程を記録した短編ドキュメンタリーを紹介しています。
珪藻土の「珪藻」
珪藻は、食物連鎖の最下層に位置する小さな単細胞植物プランクトンで、地球上で最も小さな生物のひとつであり、現存する種は10万種とも言われています。
珪藻の主体成分はシリカであるため、長期間死んでも腐らず、堆積物として沈むことで「珪藻土」というシリカの層ができます。珪藻は完璧な環境下では繁栄し、個体数が飽和すると死滅するという、繁栄と衰退のサイクルを繰り返しています。このシリカにより、苔のような緑の仲間とは異なり、美しく多様な形や色を形成することができるという特徴があるのです。
庭や畑の植物を見れば、そこがアルカリ性の地域なのか酸性の地域なのかが分かるように、珪藻は非常に多様で、大体どこで採取されたものかがわかります。珪藻も植物と同じような性質を持っていて、海に生息する珪藻は淡水では生きられませんし、その逆もまた然りです。どの種の珪藻が生息しているかで、河川・池・海岸の水質を判断することができます。
また、珪藻は水質や環境汚染の指標となるだけでなく、私たちの生態系の多くを支えています。海面に近いところに住む植物プランクトンや海藻による光合成(太陽の力を利用してCO2を有機物に変換して生命を維持し、その過程で酸素を放出)によって、地球の酸素の3分の2がつくられていますが、そのうちの3分の1が珪藻によって大気中に戻されたものです。
ヴィクトリア朝時代の珪藻アート
珪藻アートは顕微鏡の中で珪藻をひとつひとつ並べていく、ミクロン単位の小さな芸術作品です。この芸術はヴィクトリア朝時代(1837~1901)の顕微鏡学者によって生み出され、当時は顕微鏡で選んだ特定の珪藻を、木の軸に取り付けた一本の人間の髪の毛を使って、スライド上を動かし配置していたそうです。
19世紀の終わりにハロルド・ダルトン(1836-1912)によって製作された作品の一部をご紹介します。彼は珪藻だけでなく、昆虫や蝶などの鱗を用いて作品を製作しています。
現代の珪藻アーティスト「クラウス・ケンプ」
顕微鏡技師であるクラウス・ケンプは16歳の頃から自然史に大きな情熱を持ち、ヴィクトリア朝時代に作られた最古の珪藻のアレンジメントに魅了され、珪藻の美しさと対称性に感銘を受けました。その後、人生の大半を現代の珪藻類のアレンジメントの研究と完成に費やし、万華鏡のように目まぐるしく変化するパターンを作り出してきました。その作品は現在作られている中で最も複雑なものの一つとなっています。
彼の芸術は映像作家のマット・キリップのドキュメンタリー(※)にも収められています。顕微鏡を覗きながら、海や水たまりなどで採取された珪藻を針の先で配置し製作していく過程は、途方もない集中力と技術力が必要です。キリップは、「彼は芸術と科学の美しい融合を実現した最後の偉大な実践者である」と提唱しています。
※ドキュメンタリー「肉眼では見えない万華鏡の名作たち」(4:40)
英語音声のみですが、このブログに書かれていることが大半ですので映像だけでも楽しめます。
出典:
海と船なるほど豆辞典
A cabinet from curiosities
Diatom art
Wired
Colossal
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